図画工作2

そもそもの、おはなし。

■グリモワール、もしくはある日の幻想郷@

 にとりがいつものように、自分の工房で図面をひいていると、戸を強くノックするものがありました。
「おやおや、騒がしいね。どうしたい?」
 顔をのぞかせたのは魔理沙でした。
「よう、にとり! いいこと思いついたんだ。一枚かまないか」
「どうせまたろくでもないことなんだろう?」
「あったりまえだろ! 悪いことしないで、何が魔女だって!」
「はは。あんたのそーゆーとこ、好きだよ。いいさ、のってやるよ」
 工房のどっしりしたテーブルで二人の悪党は相談することになりました。
「こいつが今回のターゲットだ」
 魔理沙はもったいぶって言い、それから二つのものを取り出しました。
「人形と……本? もしかしてこれアリスのじゃないかい?」
「さすがだな、にとり」
「私も前々から気にはなっていたんだ……。でも、どうしてこれがここにあるんだい?」
「ふふふ……ぬすんだ」
「なんで!?」
「こわしたから」
「……通報します」
「わあっ、まてまて。話せばわかるって。わざとじゃないんだ!」
「そりゃあ、わざとだったら犯罪っていうかヤンデレだよ。何があったんだい?」
 魔理沙が言うには、中の仕組みがどうなってるのかしりたくて、いじっているうちにうっかりこわしてしまったらしいのです。まあ、たいへん!
「アリスは今、魔界に行ってるんだ。もどってくるまえになんとかすり替えておかなくちゃ」
「どうせばれるような気はするけどねえ……」
「大丈夫だって! 私の度胸とお前の小細工が合わされば本物にまけない上海人形とグリモワールになるって!」
「あいかわらずあんたはひとをほめるのがダメだねえ。いいさ、やるよ。あんたのぶきっちょには河童も脱帽だ」
 にとりはにかあっと笑って、さっそく新しい図面をひきはじめました。
「ここがこーなって、あそこが……」
「ここのクロスになってるところ、どうなってるんだろ」
「うーん、開けてみないと」
 二人の悪党は目をきらきらさせて、アリスのたいせつなもちものをいじくりたおしました。
 夕方になっても、夜になってもふたりの楽しい悪だくみはおわらないのでした。
「ううん、奥がふかいなー」
「すごいなあ、アリスは。こんなの作るなんて」
 さあ、二人はぶじにつくることができたのでしょうか?

■とうめいな絵本、もしくはある日の幻想郷A

 にとりがいつものように、自分の工房で図面をひいていると、戸を強くノックするものがありました。
「おやおや、またかい。騒がしいね」
「こんばんは! あのねあのね、おねがいなの! とぉってもだいじなの!」
 戸を開けたのは、からすの子。大きな羽をばたばたさせて、なにか言おうとしています。けれど、つかえたようにかんじんのことばがでてきません。
「どうしたんだい、おくう? はやく言いなよ」
「どうしよう……あんまり急いでかけてきたから、わすれちゃった」
 いまにも泣きそうにかおをゆがませています。にとりはしずかにいいました。
「その手にもっているのはなんだい?」
「あっ! そうそう、これこれ!」
 おくうの手には何枚かのかみが丸められていました。中には絵本が書かれていました。
「これを印刷してほしいの!」
「あんたがかいたのかい? へえー、器用なんだねえ」
「あのね、ビー玉みたいな絵本がいいの。おはじきでもいいの。とうめいでね、むこうがすけてみえるの!」
「……なんだって?!」
 にとりのからだがうずきだしました。意味がわかりません。けれど不可能を可能にするエンジニアリング・スピリッツに火がついたのでした。にとりはぶるりとむしゃぶるいしました。
「とうめいなえほんか……。ふふん、うでがなるな!」
――――――それから3日が経ちました。――――――
「……できない……どうやったらいいのか……」
 めのしたにくまをつくった河童のしかばねがテーブルに突っ伏していました。部屋中にくしゃくしゃに丸めた試作品がちらばっています。
「じんるいにははやすぎたのだ……」
 おやおや。すっかりまいってしまったようです。けれど、かみさまはみすててはいません。ぶつぶつとひとりごとをつぶやくにとりのみていないところで。
 ――ふわり。
 なんということでしょう!
 へやのすみっこの試作品に、ハートマークがうかびあがりました。そして、いくつもの文字がつぎつぎとでてきます。
 まるで、みえない誰かのこころをうつしだすかのように、ひとりでに文字はつづられていくのでした。
「うーんうーん……とうめいこわいよぉ……」
 にとりはそのふしぎな本に気付きません。まるで無意識にいる何かみたいに、もうひとつのとうめい絵本は誰にも気付かれないのでした。
 そうしてとうめいな絵本は風にあおられ、ゆらりゆらりととうめいな紙面をひるがえらせて、窓の外へとんでいくのでした。
 こころをさがしにいくみたいでした。

今は、けっこう後悔している ▽

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