「なあ、アリス。お前、劇で音楽流したりはしないのか?」

そう、何が物足りなかったかって。アリスの人形劇には音がない。踊りには音楽が必要不可欠だ。無音の舞もまあ、それはそれでいいものだけれど。でもやっぱり音楽があった方が、もっと素晴らしいものになると思うのだ。

「確かにあれは素晴らしかった。けど、音楽があった方がもっと盛り上がると思うぜ? どうだ?」

「うーん。それはそうなんだけれど。人形たちに演奏させようかしら。でもさすがに楽器は作れないし……」

困ったように顎に手を当てる。まあそりゃあ、人形サイズの楽器なんて、そうそうないだろうしな。

でもそんなものなんていらないんだ。それよりもっと簡単な方法があるじゃないか。一番身近なものが。

「ならさ、アリスが歌えばいいじゃないか」

自分が鼻歌を歌っていて思いついた。歌なら自分の身一つあれば、変に何かを用意する必要もない。なにより歌って踊るだなんて、すごく面白そうじゃないか。

我ながら名案だったな、なんて思いながら、笑って隣にいるアリスの方を振り向いて。でもその表情を見て、驚きで歩みが止まってしまう。だってアリスの顔は、一変冷たく固まっていたんだから。

「アリス、どうかしたか?」

あまりの形相に、何が起きたか一瞬わからなくなってしまう。それは強い嫌悪のような。深い悲しみのような。はたまた哀愁のような。複雑な感情が入り混ざって。

ただ一つだけ言えるのは、これはアリスにとって触れてはならない何かだったのだろうということだった。

「……ごめんなさい、魔理沙。残念だけどそれは出来ないわ」

「どうしてだ?」

「私、歌は嫌いなの」

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